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厳しい住宅問題に取り組んだ1年〜 コロナ禍・市民の記録・1

新型コロナウィルス感染症に見舞われたこの1年。人々の暮らしに何が起きているか。国内で活動するNGOや支援団体の目を通してお伝えするシリーズ「コロナ禍1年・市民の記録」。第一弾は、新型コロナの影響で厳しさを増す住居問題に取り組んできた「住まいの貧困に取り組むネットワーク」の活動をお伝えする。

新型コロナの影響による減収で、住居の維持が困難な人が増えるなか、「住まいの貧困に取り組む ネットワーク」は、初の緊急事態宣言が出される直前の2020年3月24日、「コロナショックに対する緊急住宅対策」と題する緊急提言書をまとめ、とくに『住居確保給付金』を大幅に拡充するよう広く呼び掛けました。

『住居確保給付金』とは、主たる生計者の収入が離職や廃業などで大幅に減少している場合、一定の条件のもと、家賃額を原則3か月間支給するという制度です。3月28日には緊急記者会見を行ったほか、5月29日には国土交通大臣と厚生労働大臣宛に申入書を提出しました。特に強く求めたのが以下の3点です。

  • 現行の「セーフティネット」(住宅確保に配慮が必要な方の入居を拒まない住宅)等を活用した、住居喪失者への緊急の住宅確保及び提供
  • 「住居確保給付金」の受給要件の大幅改善と支給額の見直し
  • 家賃滞納者への立ち退き禁止、家賃支払い猶予、家賃の減免措置の実施

緊急アピール「家賃滞納者への立ち退き要求を止め、共に公的支援を求めましょう~」(2020年3月28日)
http://housingpoor.blog53.fc2.com/blog-entry-328.html

「家賃払えず」「ローン滞納」〜深刻な相談が相次ぐ

「家賃が払えず大家に分割払いを交渉したが、承諾してもらえず弁護士を立てられてた」(40代/女性・シングルマザー)
「家の住宅ローンが支払えなくなり、この先が不安だ」(40代/男性・自営業)

緊急事態宣言の発出以降、様々な相談が「住まいの貧困に取り組むネットワーク」のところに届きました。このため9月25日には、さらに「住居確保給付金」の支給期間、支給対象者、収入要件、支給額等についての改善を求める要望書を厚生労働省に提出し、交渉を行いました。

「住居確保給付金」の拡充、改善を求める緊急要請書」(2020年9月25日)
http://housingpoor.blog53.fc2.com/blog-entry-330.html

市民の署名で「住居確保給付金」9ヶ月給付の道を拓く

「住居確保給付金」の支給期間はもともと「原則3ヶ月・最大9ヶ月」とされていました。しかし、それだけでは、給付金の支給が12月までで打ち切りとなってしまいます。

新型コロナウイルスの感染拡大が長引き、安心して年越しできない人が続出する事態が想定されました。そこで、11月4日に緊急のインターネット署名を「change.org」で開始。「住居確保給付金の支給期間9か月の延長を!」の合言葉に、給付期間をさらに3ヶ月間の延長するよう求める呼びかけを行いました。署名には多くの反響が寄せられ開始から2週間で2,500件、最終的には3,000件もの賛同が集まり、また200件程度の応援メッセージも寄せられ、世論の関心度の高さが表されています。

この署名を受け、11月19日に厚生労働省へ緊急要請書を提出。院内集会も開催し、政府交渉を行った結果、これらの取り組みが結実し、政府は12月8日、「住居確保給付金」の給付期間を3ヶ月延長し、最長12ヶ月を支給する方針を決定しました。

「住居確保給付金の支給期間9ヶ月をはじめとした同制度の抜本改善と拡充を求める緊急要望書」(2020年11月19日)
http://housingpoor.blog53.fc2.com/blog-entry-332.html

「住まいの貧困に取り組むネットワーク」では、これら一連の活動と並行して、国会議員に対するロビイング活動を行い、業界団体に対する働きかけを行いました。また、各都道府県の自立支援機関の職員の方々からも現場の声が寄せられ、結果として大きな流れへと変化していきました。

支給に新障壁「求職要件」「資産要件」

ところが、政府は支給期間の延長に伴い、「求職要件」と「資産要件」という新たな要件を設けました。そこで「住まいの貧困に取り組むネットワーク」は、「国民の住まいを守る全国連絡会」とともに12月22日、撤回を求める要請書を厚生労働大臣に提出。「住居確保給付金」の給付要件や給付金額の上限を抜本改善し、家賃の支払いが困難になっている全ての人が、コロナ禍が終息するまで家賃の給付を受けられる『家賃補助制度』の実現を要請しました。

「住居確保給付金」の支給期間延長に伴う「求職要件」、 「資産要件」の新たな措置に抗議し、その撤回等を求める要請書
http://housingpoor.blog53.fc2.com/blog-entry-335.html

積み重ねてきた活動による具体的な成果

「住まいの貧困に取り組むネットワーク」の継続的かつ粘り強い成果により、厚労省が所管する「住居確保給付金」の給付要件は大幅に緩和されるなど、一定の成果がありました。もともと、この制度の趣旨は「離職等により経済的に困窮し住宅を喪失した方もしくは喪失するおそれのある方に国や自治体が家賃相当額を支給し、住まいと就労機会の確保に向けた支援を行うもの」とされていましたが、2020 年5月の時点で、制度の趣旨が「新型コロナウイルス感染症の影響による休業等に伴う収入減少により、住居を失うおそれが生じている方等に対して、住居確保給付金を支給することにより、安定した住まいの確保を支援する」と変わり、“住まいの確保”が中心に据えられました。

このように新型コロナ禍において「住まいの貧困に取り組むネットワーク」の活動は、政府による支援策の問題点について、改善の要望を出し成果をあげてきました。


  • ハローワーク通いなど具体的な「求職活動」を要件にしていたが、これを緩和。「誠実かつ熱心な求職活動」と抽象化することで対象範囲が拡大(2020年4月30日)
  • 「65歳未満」の要件の撤廃(2020年4月1日)
  • 離職や廃業だけでなく、給与を得る機会が減少した人も支給対象者に拡大。(2020年4月30日)
  • 支給期間の延長の実現。従来の「最長9ヶ月」から「最長12ヶ月」へ延長。(2020年12月8日)

これらの成果について、「住まいの貧困に取り組むネットワーク」世話人の坂庭国晴さんは、「支援期間の延長が実現したことは、各界からの強い要求に応えたもので、大いに歓迎したい」と評価しています。一方で、収入要件が生活保護レベルであるため、所得が下がり家賃支払いに困っているにもかかわらず、制度対象から漏れてしまう人がいる点を指摘。生活保護制度の住宅扶助に準じた低い給付上限が足かせとなり、給付を受けても家賃滞納を回避できない人もいるとして、収入要件や給付上限の緩和を進めていく必要性があるとしています。

新型コロナウイルスによる経済的な影響が今後も長期化していく中、「住まいの貧困に取り組むネットワーク」は引き続き、国に対して住宅政策の改善を求める活動を続けていきます。

今後の予定

1.2021年4月17日、「東京の住宅セーフティネットについて考える」集いの開催。豊島区南大塚
2.2021年5月19日、院内集会「住居確保給付金の抜本改善、家賃補助制度の実現を」(仮)の開催。

住まいの貧困に取り組むネットワーク
http://housingpoor.blog53.fc2.com
国内の住居貧困に関する課題に取り組むNPOや市民、住宅問題の研究者、専門家などが連携し活動している団体。2008年に発足して以来、政策提言やシンポジウム、支援活動に数多く取り組んでいる。
世話人:坂庭国晴(住まい連代表・日本住宅会議理事)、稲葉剛(つくろい東京ファンド代表理事)

まとめ:奥村圭二郎(編集部)

by covot編集部

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このWEBサイトは、Covid-19の感染拡大により今、社会全体に困難な状況下で、もっとも脆弱な立場にある人々の声を拾い上げ、可視化することを目的に立ち上げました。COVOT(Covid19 Voice Together)という名称には、困難に直面している一人ひとりの声が響きあうことで、誰もが尊重され、生きやすい社会に向かう一歩したいとの願いが込められています。

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