まともな仕事と待遇


医療や介護の現場から悲痛な声が相次ぐ~愛知県医労連の電話相談・アンケート

新型コロナウイルスの感染や影響が続き、「第3波」と懸念される中、医療や介護の分野で働く人たちの不安が止まらない。医療・福祉・介護職場で働く人たちでつくる労働組合「愛知県医療介護福祉労働組合連合会」(愛知県医労連)は、こうした人たちからの相談を受け付けているが、コロナ禍以前にはなかったペースで仕事に関する相談が寄せられている。11月初めに実施した電話相談や介護現場を対象にしたアンケートには、切実な声があふれた。

愛知県医労連が新型コロナに関する対応を始めたきっかけの1つは2月下旬、加盟する病院で新型コロナ感染者のクラスター(集団感染)が発生したこと。事態の深刻さを受け、3月にアンケートを実施したところ、マスクなどの防護具の不足や、医療・福祉で働いていることで差別を受けている実態などが浮かび上がった。

11月1日の電話相談の様子。愛知県労連提供

個別の悩みに応えるため、5月9日に電話相談を実施すると、1日だけで43件の相談があり、感染への不安を訴える声が多くあった。

愛知県医労連では、その後も常時、電話で相談を受け付ける体制を維持。コロナ前は労働に関する相談は月に2件程度だったが、5月以降、約100件の相談が寄せられているという。

従来にない多くの相談、過労死防止月間に合わせ電話相談

書記次長の林信悟さんによると、防護具などへの不安は収まってきている一方、病院や介護事業所の収入減少を背景としたボーナスの減少や雇用不安、退職勧奨に関する相談が増加。過酷な勤務についての相談もあり、11月が過労死防止月間であることも考慮し、弁護士らも待機して、11月1日に電話相談を実施した。

当日は11件の相談があり、うち7件が介護職だった。また内容では休業補償に関するものが6件あった。施設から感染者が出て休業になった場合に、給与が支払われないケースが後と絶たないという。

「実習生に陽性が出て、介護士3人が自宅待機命令。休業中の給与は全額カットと言われた」(介護職)
▼「職場でコロナ感染者が出た。濃厚接触者は『仕事に来なくていい』と言われ、自宅待機。休んだ間は欠勤と言われた」(看護助手)
▼「母子家庭で子どもが3人いる。子どものクラスで陽性者が出て学童保育が休みになり仕事に行けず、欠勤扱い(介護職)

しかし、「業務命令で休んだのであれば欠勤はおかしい」と林さんは指摘する。ほかにも、

▼「残業代は、会社で決められた枠しか払われず、未払い。パートの子どもの学校が休校となり休まなければならないので自分たちが入っている」(介護職)
▼「美容外科で麻酔を使う手術をやらないので、辞めてほしいと言われた。断ったら東京へ異動と言われた」(クリニックで非正規で働く医師)

など、新型コロナ感染症の影響による休校や休業によって、現場の人の配置にしわ寄せが出ているという。後者のケースの相談は弁護士に引き継がれた。

半数近くの介護事業所が今年度前半ですでに減収

この電話相談に先立ち、愛知県医労連は10月19日から31日まで、愛知県社会保障推進協議会と協力し、県内の介護施設4685事業所を対象に、「コロナの影響に関する介護事業所への緊急アンケート」を実施。150事業所から回答を得た(回収率3.2%)。

グラフ
コロナでの影響での収益の変化(%)

それによると44%が、今年4月から8月の間の1カ月の平均収益が前年同期と比較して減少したと回答した。減収と回答した割合を事業別にみると、訪問介護が37%、通所サービス(デイサービス・デイケア)が34%と高かった。また、「感染リスクの回避」や「人員体制困難」で事業を停止した事業所が3カ所あった。

ボーナス(一時金)については、夏は「昨年と同じ」が82%で、「昨年より減」が15%だった。一方で、冬のボーナスについては、「昨年と同じ予定」は48%にとどまり、「昨年より下がる予定」が18%、「何とも言えない」が34%と、先行きの見えない状況をうかがわせた。

職員への影響では、「メンタルヘルスの悪化」が40%あり、「労働条件の変更」が17%、「退職者の増加」が13%だった。

またマスクや防護具、消毒液などの衛生物資の充足については、「足りない」との回答は多くはないが、「入荷できるがコスト高で困る」の回答がいずれも半数を超えた。プラスチック手袋では、「足りない」も40%とやや多く、「入荷できるかコスト高で困る」が77%だった。

自由回答に「メンタル面ピーク」「利用者が高熱でも訪問」

アンケートの自由回答には厳しい現状を伝える悲痛な言葉が並ぶ。

▼「感染予防対策がいつまで続くのかわからないことが不安」
▼「職員のメンタル面がピーク。仕事でもプライベートでもコロナにおびえている。感染した際の身体の事よりも社会的偏見や制裁、収入面での不安が大きい」

感染に対する不安から常に緊張を強いられている現場の過酷さが伝わってくる。また利用者などからの感染リスクを減らすため、医療・介護施設でのPCR検査の徹底を求める意見もあった。

▼「利用者が感染者か否かわからない状態でも訪問に入らなければならないのに対応策がない」
▼「デイサービス等でコロナ発生が確認されても情報が確認できず当施設の入所者を行かせてしまう」
▼「高熱の利用者宅への訪問に躊躇(ちゅうちょ)するヘルパーもいる」

一方、施設を管理する側にも強い危機感を募らせている。以下はその一例だ。

▼「(感染などで)欠員が出たときに困るため、満床にできない」
▼「当社のような小さい事業所は、ヘルパーさんを募集しても中々見つからない。ボーナスなど出す余裕もない。利用者と従業員を守るのが精一杯です」

また、感染を予防するための対応が、利用者の心身に大きく影響しているとの指摘もあった。

▼「入居者は外に出られない、家族に会えないこと等でずっと施設に閉じこもっているので、ADL(日常生活動作)の低下がみられ、介護度も高くなっている」

愛知県医労連の林さんは「原因がコロナによる影響だと、使用者に要求しても解決が難しいことも多い。病院や介護施設は、施設を埋めることで何とか経営している。ベッドの空きなどが出てくると、賃金や労働条件が落ちていくので、行政が手を打つべきだ。大きな病院であるほど、コロナの影響が大きい」として、国や自治体の対応を求めている。

個別の施設の努力ではどうにもならない状況が差し迫る中、ここ数日、重症患者数が大幅に増え、兵庫県や大阪府などでは医療崩壊の懸念が高まっている。ツイッターでは、#医療従事者の声を聞いて下さいとのハッシュタグが広がり、医療従事者の悲痛な訴えが続いている。

by covot編集部

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