東京、東中野の「ポレポレ東中野」では前後左右に1席ずつ間隔を空け、席数を半分以下に減らして営業を続けている(写真提供:ポレポレ東中野/2020年7月23日撮影)

豊かな文化と表現の自由


ミニシアターを救え!「SAVE the CINEMA」から広がった新たな運動

ミニシアターへの緊急支援を求める署名活動『#SaveTheCinema「ミニシアターを救え!」プロジェクト』が7月15日、署名数91,659筆で終了した。18日に東京、下北沢でこれまでの活動を振り返る報告会が開催された。

ミニシアターへの大きな打撃

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が「スポーツ、文化イベント等の中止、延期または規模縮小などの対応」を要請した2月下旬から、観客の減少に直面し苦境に立たされた映画館。中でも大きな打撃を受けたのはミニシアターと呼ばれる小規模映画館だ。「不要不急の外出自粛」「三密を回避」という言葉が飛び交う中、3月に入ると収益が前年比5割~8割減、観客が0人の回が出るミニシアターも。3月24日に東京五輪の延期が決定し、翌25日に東京都が「週末の外出自粛要請」が発表すると、都内の多くのミニシアターが休館を余儀なくされた。

その後、感染予防策を取り入れながら再開したミニシアターもあったが、4月7日、東京、埼玉、千葉、神奈川、大阪、兵庫、福岡に緊急事態宣言が発令されると、各地のミニシアターも休館を発表。4月16日には緊急事態宣言が全国規模となり、補償のないまま休館は全国に拡大した。

多様な映画を支える日本のミニシアター文化

 日本にはおよそ600館の映画館、約3600スクリーンが存在する。そのスクリーンのうち9割近くはシネコンが占めており、ミニシアターや名画座の持つスクリーン数は217。2019年に日本で公開された約1300本の映画のうち、4割にものぼる約550本がミニシアターのみで上映された作品だ。全体の1割にも満たないスクリーンが、日本の映画文化に豊かさをもたらしてきた。

 ミニシアターによって確保されてきた映画の多様性。しかし、大きな資本に支えられているシネコンとは異なり、ミニシアターは経営規模が小さいため、休館が続くと閉館を検討せざるを得ない状況につながりやすい。もともと日本には、フランスや韓国のような小規模映画館に対する公的な支援もなく、ただでさえ厳しい経営を続けてきたミニシアターにコロナ禍が追い打ちをかけることとなった。

ミニシアターの特徴のひとつに上映後のさまざまなトーク、イベントがある。多くの観客が監督や関係者との対話を楽しみに集う。(写真:ポレポレ東中野)

ミニシアターを救え!盛り上がるさまざまな動き

 休館が続き困窮するミニシアターを守ろうと映画人が動き出す。同時多発的に様々なアクションが続々と立ち上がった。

まず、4月6日に政府にミニシアターへの緊急支援を求める要望書を提出するための署名活動『#SaveTheCinema「ミニシアターを救え!」プロジェクト』がスタート。署名は1週間で6万筆以上が集まり、4月15日に内閣府、経済産業省、厚生労働省、文化庁に要望書が提出された。(http://chng.it/96LSBkDFY8)要望書には、自粛要請や客席数の制限等拡大防止策によって生じる損失補填を求める緊急支援と、集客回復など終息後の支援が盛り込まれた。

4月13日からは映画監督の深田晃司、濱口竜介を発起人として有志が立ち上げたプロジェクト「ミニシアターエイド基金」がミニシアターへの支援金獲得のためのクラウドファンディングを開始。わずか24時間あまりで5,800万円を超える資金が集まり、3日で目標金額の1億円を突破。全国各地から応援の声が寄せられた。5月15日に終了するまで約1ヶ月続いたこのプロジェクトは大きく盛り上がり、日本のクラウドファンディング史上最高額となる3億3千万円を獲得。支援者はクラウドファンディング外からも含め3万人以上に上った。(https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid

政府から支援を引き出したい!#WeNeedCulture #文化芸術復興基金をつくろう

 「ミニシアターエイド基金」で支援対象となったのは全国の118館。3億3千円を分配すると、1館あたり300万円程度となる。ランニングコストはそれぞれ異なるものの、およそ 1~2ヶ月を凌ぐのが精一杯だ。

そんな中、同じように危機感を持つ演劇、ライブハウス、クラブなどの文化芸術関係者とのつながりが生まれる。5月21日から「文化芸術復興基金」の創設を求め「#WeNeedCulture」キャンペーンが始動。翌22日に演劇・映画・音楽合同の要望書が文化庁、文部科学省、経済産業省、厚生労働省に提出された。

こういった動きを受け、6月12日に成立した第二次補正予算では文化芸術活動に対する500億円の緊急支援策が盛り込まれた。文化庁の年間予算は1000億円。その半分にあたる。同日の国会では日本の内閣総理大臣が初めてミニシアターの存在意義について言及。安倍首相は「ミニシアター、ライブハウス、小劇場などの施設については映画や音楽演劇など多様な文化芸術の創造、発信を支えるひとつの場として、我が国の文化芸術をより豊かなものに育てていくために重要な役割を果たしていると認識している。多様な文化芸術の発展に影響が及ばないようにしっかり支援していきたい。」と述べた。

7月18日に開催された「ミニシアターを救え!Save the Cinema、ミニシアターエイド基金、Save the Cinema Movement」合同報告会(写真提供:沼田真典)

7月15日から文化庁が募集を開始した「文化芸術活動の継続支援事業」にはミニシアターやライブハウス等も対象となる旨が記載されたが、緊急支援策としては使いづらさも指摘されている。現在も多くのミニシアターは客席を半分にして営業するなど厳しい状況は続く。7月18日に行われた報告会で、ミニシアターエイド基金の発起人のひとりで映画監督の深田晃司は「ドイツの文化大臣がアーティストは生命維持に必要不可欠な存在と発言したが、日本でこういった発言が出ないのは普段から文化の意義を世間に対し発信し、文化庁に働きかけてこなかった私たちの責任でもある。」と発言。「そもそも文化庁の年間予算が1000億円というのは、国家予算における文化予算の比率でいうとフランスの8分の1、韓国の9分の1程度しかない。この状況を変えていくために、これからも映画人がまとまって声を上げていくことが課題。」と訴えている。

by covot編集部

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